三ケ峯里山計画

愛知県立芸術大学のある長久手市は近年開発が進み、
豊かだった自然環境も徐々に失われています。
しかし大学内の敷地は開発から守られ、
今でも豊かな自然が残っています。
そしてその敷地は長久手市街と三ケ峯の山の境界にあり、
ちょうど里山のようになっています。
里山とは人間の社会と自然とが交わる境界の領域で、
古来より人は薪や木の実を集めたり落ち葉を集めて堆肥にするなど、
生活や生産の営みを通してそこから様々な恩恵を受けてきました。
一方自然も人間の営みによる適度な﹁撹乱﹂によって動植物の多様性が増すなど、
里山は自然と人間が共生し共存共栄するところでした。

また里山とは山とそこから流れる川、ため池、農業用水路、
田畑、そして里で暮らす人の暮らしや文化を含めた
農業環境をさす言葉でもあります。
三ケ峯の山に降った雨水はため池や用水路を通って今でも長久手の稲作に使われており、
農業環境として愛知芸大の土地と長久手の田園はつながっています。

愛知県立芸術大学の石井研究室では、
三ケ峯の自然環境や長久手市内で様々な活動を行ってきました。
まず学内で学生と野菜や穀物の栽培を始め、
林の中に地域の間伐材を利用して小屋を建て学生や地域の人たちと自然体験やものづくり、
食のワークショップを始めました。
また近年環境問題や大きな災害や事故が発生し、
エネルギーや社会のインフラのもろさと持続性への不安、
地域社会の大切さを感じ、
建てていた小屋には風力発電機や太陽光発電機を設置し、
そこで得たエネルギーを利用して住民参加型のアートと食と音楽のイベントを始めました。
また地域の農や食、芸能などに関わる人たちのポータルサイトを制作しました。

現代社会は高齢化や災害、子育て、教育、食の安全、過疎、環境破壊など様々な問題を抱えています。
垂直統合型の社会のシステムによる様々な弊害が顕著になる一方、
インターネットや太陽光発電、風力発電などの水平分散型の情報やエネルギーのシステムが発展し、
地域主体のコンパクトでスマートな暮らしの実現も夢ではなくなっています。
そのような時代の中で昔の日本人が培ってきた里山というコンパクトで自然と共生した生き方から
多くのものを学ぶことができます。
三ケ峯里山計画では里山という身近な生態系をベースに、
情報やエネルギー、地域、文化、自然、教育、農などをトータルに捉え、
豊かな暮らしについて考えてゆきたいと思います。

Section Image

つながっている世界

三ケ峯里山計画では、エネルギーや 資源、情報、
人の営みは一つの生態系としてつながっています。

Section Image

地図

Section Image

三ケ峯の山には手付かずの自然が残っており、ガレ場にはハルリンドウやモウセンゴケ、湿地にはシラタマホシクサ、森の中にはスズカカンアオイ、ギフチョウ、ハッチョウトンボ、川にはカワムツなどの希少な動植物が生息しています。石井研究室では三ケ峯の山で地域の人達や学生と山歩きや自然観察、動植物の調査、自然環境を生かした作品制作などを行い、その貴重な自然環境を理解し様々なことを体験する場として活用しています。 また三ケ峯の山には手掘りの農業用トンネルやため池、農業用水路などの貴重な農業遺産が残っています。また三ケ峯の山に降った雨はため池に集められ水路を通って今でも長久手の稲作の水として使われており、三ケ峯の山と長久手の田園は一つの農業環境としてつながっています。 もっと読む

愛知芸大の校舎の周囲には雑木林が広がり、クリ、ギンナン、ジューンベリー、ビワ、スモモ、タケノコ、ムカゴ、シイの実、ヤマザクラの実、サンショの実などの多くの自然の恵みを提供してくれます。 石井研究室ではそれらの自然の恵みを活かして地域の人達や学生と料理をつくるワークショップを行なったり、林の落ち葉で堆肥をつくったり、拾った木の枝や間伐した木を料理のワークショップの燃料として使っています。そしてそれらの活動を通して林の恵みを享受するとともに、林の環境を良好に保つことを心がけています。 また林は夏は涼しい木陰を提供し、冬には冷たい北風を和らげてくれます。そして子供達の遊び場や散策の場所、学生の作品の展示や学生と地域の人達が交流する場にもなっています。もっと読む

三ケ峯にはヨシの生えた湿地やコゴミ、ツクシ、イタドリ、フキ、ベリーなどが生える野があります。また季節には様々な野の花が咲き、イノシシや野ウサギ、タヌキ、ヘビ、トカゲ、キジ、山鳩などの多様な動物や鳥類が生息しています。 石井研究室ではその野の草や実を調理して自然体験のワークショップを行ったり、野の草花をイベントや祭りの装飾として活用したり、野の草を畑の肥料として使っています。もっと読む

石井研究室では、学生達と地域の間伐材を利用して家を建てています。家を建てることを通して学生達が共同で建物を造る体験をしたり、林業や建築のこと、環境のことなどさまざまな事を学んでいます。 また建てた建物は様々な活動のための機材置き場や、ワークシップ、展覧会、ライブ演奏などを行う場所として利用しています。また太陽光パネルや風力発電機、バッテリー、雨水タンクを設置して、自然エネルギーや天然資源を利用する実験もしています。 もっと読む

あまり草の生えていない平らな場所では、学生や地域の人たちと野外の環境を活かした作品制作をしたり、周囲にある土と木、草などの素材を使って陶器や小屋、ピザ窯を作ったり、隣の林から採ってきた薪と隣の畑で採れた野菜を使って料理をするなど、様々な造形やワークショップをおこなっています。 ここでは普段行うことができないスケールの大きな作品の制作やダイナミックな表現、オープンなコミュニケーションを行うことができます。お金をかけなくても自然の環境は様々な素材や場所を提供してくれます。便利なものは何もないからこそ、協力して作業をしたり、いろいろ工夫してものを作る体験をすることができます。 もっと読む

石井研究室では学生や地域の人たちと愛知芸大の敷地内で畑を作り、カボチャやキュウリ、トマト、ナス、オクラ、ダイコン、ニンジンなどの様々な野菜を育てています。 肥料は周囲の野の草や林の落ち葉を堆肥にしたり、三ケ峯の牧場の牛糞堆肥を使うなど、できるだけ周囲や地域のものを使っています。また採れた野菜や穀物は自然体験のワークショップや祭の食材として利用しています。近年はイノシシなどに畑を荒らされることも多く、獣害への対策も必要になってきています。 もっと読む

石井研究室では地域の人が集まるイベントや祭を開催し、音楽やアート、自然、食が地域の人たちの出会いや交流に果たす役割について研究しています。 それらのイベントや祭では、自分たちで育てた季節の野菜や地元で採れた野菜を使って調理したり、林から木の枝を取ってきて薪にしたり、季節の草花で装飾をしたり、地元の伝統芸能や地域在住の演奏家による演奏を聴くなど、できるだけ地域の自然や季節、文化を感じられるようにしています。 またそれらのイベントや祭では参加者が料理や会場設営、装飾、演奏に参加して、様々なことを体験し交流することができるようにしています。もっと読む

地域の農業環境や自然環境を維持し、老後や子育て、教育、食の安心・安全、地域の経済のためにも、地域のコミュニティーを維持することは大切です。 石井研究室では長久手市内の農ある暮らしの情報を集めたポータルサイトを制作するなど、地域の農ある暮らしの情報発信とコミュニティーの維持の研究をしています。また市内で畑を借りて畑仕事をしたりするなど、地域の農ある暮らしを実践しています。もっと読む


三ケ峯里山計画
-地域の生態系と暮らし-
創立50周年記念展示
「芸術は森からはじまる」
2016年9月3日(土)~ 24日(土)
愛知県立芸術大学
愛知県長久手市岩作三ケ峯1-114

Section Image