研究・活動の経緯

1970年代:Whole Earth Catalogと出会う

石井自身は1970年代後期に前述のWhole Earth? Catalogを購入し、自給自足的でオルタナティブな思想に触れる。またバックパッキングなど、自然志向に根ざしたムーブメントに触発され、実践した。

1980年代 :クロスオーバーの時代、オブジェ作品の制作

時代はクロスオーバー、シナジー、ホロニックなどの概念によって脱領域的、包括的な新しい考え方が出始め、デザインやアート界にもオブジェや映像、パフォーマンスといった新しい表現形態が出てきた。石井自身も立体作品、オブジェ作品の制作など、デザインとアートの境界領域で活動を始めた。

1980年代~1990年代初期:Apple Macintosh II、インターネットとの出会い

1980年代後期にApple Macintosh IIを購入して以降、映像や音楽などのマルチメディア的な表現活動をおこなう。1992年のD0CUMENTA9 International Mobile Electronics Cafe Nagoya Correspondense Station(名古屋市美術館)に参加し、インターネットを初めて体験した。まだ電話回線を通じてFTP で海外と画像のやりとりするというものだったが、インターネットに対して強烈な印象を持った。1994年にフロリダでのSIGGRAPHで世界初の、テキストと画像を混在させて表示ができるインターネットブラウザ、NCSA mosaicを体験すると、インターネット回線に接続しインターネットについて試行錯誤を繰り返した。しかし世界中ではまだwebサイトそのものが少なく、モデムで電話回線につなぐ必要があり回線スピードも遅く、インターネットは使いやすいとは言いがたい状況だった。その後は海外とのやりとりをemailでおこなったり自身の作品の資料をwebサイトに載せるなど、インターネットを活用なしながら、その進化の動向を注視していた。

1990年代前期:参加型の場をつくる実験場としてのメディアアート

90年代にはいるとコンピュータの処理速度も向上し、人がただ鑑賞するだけでなく人の行為に反応するインタラクティブ(双方向的)なシステムが可能になり、コンピュータの展示会やメディアアートの分野で、様々な実験がなされるようになった。
石井自身の活動も、90年代初期から次第にインタラクティブなメディアインスタレーション制作へと移行していった。そして自身でプログラムを組みそれに様々なデバイスを組み合わせてインタラクティブなシステムをつくることで、それまでは映像を見せるだけの一方向的だった展示のスタイルから、鑑賞者が参加できるしくみをつくることができるようになった。当時は現在ほどインターネットやスマートフォンなどが普及しておらず参加性、双方向性という概念が一般的ではなかった時代に、メディアアートという分野は情報テクノロジーによって様々な参加性のある場をつくる実験場となっていた。 また90年代には広告代理店に籍を置き、ディレクションや、マネージメント業務をおこなった。

1990年代後期:ミクストリアリティー、現実空間における参加性へ

石井自身の作品は様々な機器の進化もあって映像ベースの作品から、より物理的な要素を伴ったミクストリアリティー的なインスタレーションへと変わっていった。そして実際の都市の空間や歴史的建造物の中でインスタレーションをおこなうなど、現実空間の中で人と人や空間が交流する参加性のある場をつくることに移行していった。

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2000年代:メディアアートとデザインのと融合、実験から実践へ

2000年代になるとADSLや光ファイバーなどの高速通信網の発達、インターネット接続料金の定額制の導入、パーソナルコンピュータの低価格化などによってインターネットは社会に広く浸透しはじめる。石井自身はインターネットサーバを構築してインターネットによる映像の配信の実験をするなど、場所や時間に限定されずに多くの人たちを情報やイメージを伝えることができるインターネットに多くの可能性を感じていた。
2000年代中期になるとCMS(Contents Management System)の普及によって、webサイト制作は静的なHTMLからより動的なwebサイトへ移行し、情報更新の頻度とデザインの自由度と拡張性は飛躍的に高まった。またスマートフォンと高速電話回線、GPS、blog、twitter、FacebookなどのSNSが普及し、Googleによって世界中の情報は網羅、組織化され、インターネットは社会や生活に不可欠なものになっていった。
1980〜90年代はインターネットや様々なメディアテクノロジーの黎明期で、多様な実験をおこなったり理想を語る場としてメディアアートの分野が存在した。しかし現在はパーソナルコンピュータやスマートフォン、インターネットの高速通信回線が一般化し、メディアテクノロジーが実社会で機能をはたせる段階になっており、もはや実社会とメディアアートを分ける必要がなくなっていったように思う。
また地域の豊かな自然環境やコミュニティーにいながら、インターネットやオンデマンドのよるデザイン制作をおこなえる環境になり、石井自身の広告代理店勤務などで得た経験を生かして、地域の観光や文化、歴史関連のwebサイトや媒体制作など、地域に根ざした情報デザインや活動をおこなうようになった。

2010年代 :現実社会における参加性の実現へ

現在は地球温暖化などの環境問題がクローズアップされ、地域は過疎によって疲弊し、福島第一原子力発電所の事故は未だに終息しておらず、今われわれの生活や暮らしそのものの根底を揺るがす様々な問題が起こっている。どれだけ海外で活動をしていても、今現在自分が生活している地域の環境や地域社会が疲弊していては、何のための活動だろうと思う。インターネットなどの情報ツールを活用して地域社会に生かすことは、分散型の情報テクノロジーであるインターネットの本来のい使い方なのではないか。地域に居ながら地域からの情報発信や様々な活動がおこなえる環境が整いつつある今だからこそ、海外などの「ここではないどこか」ではなく、自分が生きている地域の中で、自身が持っているデザインや情報の知識や技術を使って今この場で活動し、この場を良くすることにこそ意味があるのではないだろうか。本来インターネットやパーソナルコンピュータは反体制運動の流れから生まれ、抑圧され制限されていた人間の能力を拡張するツールであったのだから、インターネットなどのツールを一極集中的なマス社会の中で辺境に追いやられて疲弊する地域の為に活用することこそ、インターネットやパーソナルコンピュータ本来の目的にかなうことだと思う。
現在はFacebookなどのコミュニケーションツールが発達し、人々が社会参加する意識も高まっている。メディアアートの世界で啓蒙された「参加性」という発想は今現実の社会の中で具現化されようとしている。

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